『短編』恋する街角

 

一行けよ。


野口くんが、顎を動かしてわたしに合図する。


『ありがとう…!』


わたしは隣の車両の、その人の胸に飛び込んだ。







『うわっ!』


その人は驚きの声を上げた。


一鼻、ついてる一


あの時と同じ、低い声。


わたしは感激のあまり、抑えていた涙がまた溢れ出す。


あの人の胸にしがみついたまま、わたしはあの人の顔を見上げた。


あの人の顔が、涙で霞んでいる。


大粒の雫が頬を伝った時、やっと、「運命の人」の顔が見えた。






『…すごく、会いたかった。』


そう言うだけで、精一杯のわたし…。