額に汗が滲む…誰かの為に、こんなに必死になったのは、初めてかもしれない。

駅に着いた俺の目に飛び込んできたのは、嫌がる朱莉を連れて行こうとしているナンパ男。

…その光景に、腹を立てない彼氏は居ないはずだ。

俺はズカズカと二人に近寄り、低い声でナンパ男を制し、朱莉をその場から連れ去る。

朱莉は、一瞬安堵の表情を見せたが、俺の顔を見て、萎縮している。

…無理もない。

俺の顔は、明らかに怒っているんだから。

電車の中でも一言も話さず、朱莉は、時々俺を見ては、申し訳なさそうな顔をして、また俯く。

その繰り返し。

マンションに着き、部屋のドアを開け、中に入って、俺はようやく朱莉の方を向き、無言のまま見下ろすと、上目遣いで、朱莉がポツリと呟いた。

「助けてくれて…ありがと」
「…他には?」