「…朱莉」

食事中、司が私の名を呼んだ。

「・・・ん?」

口の中に食べ物が入っていた私は、そうやって答える。

「昨日、雷で、あんまり眠れなかった?」
「・・・」

雷のせいではなく、司がした行動のせいで、眠れなかった、という方が正しい。

「雷、そんなに怖いのに、よく一人暮らし出来てたよな」

そう言って司は笑う。…人の気も知らないで。

「…何で」
「・・・ん?」

「やっぱいいわ」
「…変な奴だな」

なんでキスしたの?…なんて簡単に聞けるはずもなく。

それ以上は言葉を発する事もなく、食事に集中した。

いつもなら言い合いしながら食事をして後片付けして、身支度して家を出ている。

でも、今の私はそんな事が出来る心境じゃなかった。

ドアの鍵をしていると、突然後ろから司が手を伸ばしてきて、私のおでこを触った。

私は驚いて振り返る。

「…熱はないな?…今朝の朱莉、スッゲ―変」
「誰のせいだと思ってんのよ!」

私は司の胸をどんと押して、さっさと先に駅に向かった。