『…海、綺麗だねぇ。』

気の抜けたような、でも気を張っているような、よくわからないトーンでそう言った。

西野はよく矛盾しているような表情や声で話す。

近付きにくいのに、隙があるような。

透明のようなのに、生命力に溢れたような。

『私ね、

…死んだら水になりたいな。』


海の匂いが一瞬、強くなった気がした。



「……は?」


死んだら、水になる…?


振り返った西野は、また、矛盾した表情をしていた。



『風宮くん。』


やけに通る声で、大事そうに俺の名前を呼ぶ。



『…りゅー、くん。』




瞬間、目の前が真っ白になる。


その呼び方を、俺は知ってる。

間延びしたような、芯の通ったような呼び方を、俺は…






知ってる。