俺は時々授業をサボる。

理由は特にない。

ただ、なんか息苦しくて、集中できなくて。

立ち入り禁止の看板がかかってるけど、鍵が壊れて開けれるこのドア。

ギィっと少し錆び付いた音をたてて、広がるのは屋上からの景色。

この高校はすぐ近くが海になっていて。

その青を背景に、

いた。

黒い長い髪をなびかせて、近付けない雰囲気を涙にかえて。

西野が、いたんだ。

声もあげず、ただ静かに感情を下に見える海に投げるように涙を流して。


しばらく眺めていると、ふと、西野が振り返った。

『風宮、くん?』


綺麗な声だ、と思う。

自然で、透明な。


「…おう。」

それ以降は何も話さなかった。

西野はまた海を見つめて、
俺は屋上の隅に座って空を見ていた。
かすかに波の音と、学生たちの声が聞こえる。

ふと、西野を見ると、西野もこちらを見ていた。

「…なに?」

『…何も、聞かないんだなと思って。』

「何を?」

『…泣いてた、こと。』

それだけ言うと、俯いた。

「話したいのか?」

そう聞くと、西野は少し首を傾げて、複雑そうな顔をした。

「どっちだよ。」

すると西野は遠くを見るような目で、

『どっちだろう。』

そうつぶやくように言った。

なんだよその答え、と思った俺だけど、何も言えなかった。