幸せって、なに

「ところで、五十万円用意出来た?
主人がたまにはあのお揃いの高級なカップで
コーヒー飲ませてくれないかってうるさいの。
ひびがはいってるなんて分かったら半狂乱よ。
何せ主人の死んだお姉さんの形見だから。」

「形見なんですか?」

犬の買い主の寺川さんが
不審そうな顔をして出て来たので、
おばさんに手を引っ張られ
百メートル先にある
人の居ない小さな公園に連れて来られた。

「そうよ。言わなかったけど、
お葬式の後きょうだいで分けて、
主人が持ち帰った遺品の中の一品なの。
もう売ってないかと思ったら
デパートに同じのがあってね、
誰かに買われやしないかとハラハラしてるの。
だから早くお願いね。」