耳が聞こえないことに、慣れて来た頃の話。

私が教室に帰ろうと、廊下を歩いていると
前から笑顔の男の子達が私の方へ走ってきた。


避けることも忘れて立ち尽くすことしか
私には出来なかった。

ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙、ぶつかってしまう。
そう思ってギュッと目を瞑ったとき



「…ッ…たく、お前ら危ないだろう。お前らに何かあっても自己責任だが、この子に怪我でもさせたらどうすんの?」


「…ッ!わりぃ…、大丈夫か?」

ハッとして、目を開けた。
背の高い、優しそうな男の子がいた。

あ、お礼しなきゃ!
なんて気づいたのは、少し時間が過ぎた頃だった。

私のカバンからケータイを取り出すと
『助けて頂いてありがとうございます。
それと、私は怪我をしていないので、大丈夫ですよ。』

と打ち、彼らに見せた。
彼らは、ハッとした?いや、しばらく唖然として画面を見つめ続けた。
私は彼らにぺこりとお辞儀すると、
背を向けて歩き出した。