私は、聞き覚えのあるセリフに、思わず顔を上げた。少女が私に話しかけてきたのだ。
 それにその言葉は、いつも必ず、夢が始まるときに女の子が言うセリフ。
 何これ…。夢と同じ?
 いきなり起きた非現実的な出来事に、手の力が緩んで、持っていた紫色の傘を落としそうになってしまう。

「…おねーちゃん?どーしたの?」

 キョトンとした顔で、女の子は私を見上げた。
 え…?まさかこれは夢なの?
 だって、その子はいつも夢に出てくる子だったから。
 もしそうだとしたら…今度こそ、助けなきゃ!

「…いや、何でも………」

 何でもないよ、と言いかけた私の言葉を遮って、少女は「あっ!」と言った。

「その傘、ママの傘だ」

 少女は目を丸くして、私を見た。