「こんなに作れるなんてすごいですね」
袋の中からパウンドケーキをもうひとつ取り出しながら言う。
こんなにと言われてもココアマーブル、バナナ、プレーンの3種類だけだ。
だけど、そんなに関心されると悪い気はしない。むしろ、少し照れてしまう。頬が赤くなりそうだ。
「こんなに丁寧に作ってきれいに包んであるのに、いらなくなったなんてひどいですね」
ラッピングされた袋と、セロハンにリボンをつけて包んであるケーキを見て呟く。
「えっ?」
「これ、貰うはずだった人」
母の顔が浮かんだ。
「誰かにあげる物だったんじゃないんですか?」
「あっ、うん」
「こんなに気持ちがこもってるのに」
「気持ち?」
それから、「イケメンの」と付け足すように彼は続けた。
「あー。ねっ。イケメンの気持ちだからいらなかったのかも。お父さん一筋だから」
「お父さん?」
「あっ、お母さんにあげるつもりだったんだ。色々あって渡せなかったけど」
言ってから、さっきの真理恵ちゃん達の会話を思い出した。
『母の日なんか忘れる』位の行事に高校生にもなって、手作りのケーキをあげてるなんて、きっと馬鹿みたいだと思われてしまう。
今度は別の意味で頬が赤くなる。
今更、言わなきゃ良かったと思っても口にしてしまった言葉は彼の耳には届いてしまっている。
慌てるわたしをよそに「ああ、そんな日でしたね」と彼は言って、またケーキを食べた。
「なんか、高校生にもなって変だよね?こんなことにマメなの」
わたしは恥ずかしさのあまり、口数が多くなる。自分の行為を庇いたくて仕方なくなった。



