「ただいま」

家についてドアを開けると、母の明るい声がここまで聞こえた。

わたしの声は、聞こえなかったのか返事はない。

「ただいま」

ダイニングに行くと母と大がご飯を食べていた。

「あら。遅かったわね」

「うん」

大は、最近はわたしを含め家族とあまり話をしない。むっつりと黙り込んでご飯をかき込んでいた。

2階に上がり部屋のドアを閉める。

「疲れた」

誰に言うわけでもなく呟いた。

制服を脱いで部屋着に袖を通すと今日買った紙袋の中から本を取り出した。

「イケメンパティシエねぇ」

わたしの目から見るとおカマにしか見えない。なんでこういう人がイケメンと言われるんだろう。

タローくんが帰り際に言った、可愛いって言葉もあながち嘘でもないのかな。

なんて意味もなく自分に言い聞かせてみた。

背中を預けたベッドから見える天井は今日も高い。