みんな、ときどきひとり


でも梨花に貸してあげたいなこの本。このケーキとか、簡単そうだし。

買うか買わないか悩んだまま本を見ていると、隣に人が立つ気配を感じた。

横目で見ると、偶然にもキツネ男がメンズ雑誌を手にするところだった。

最悪。

向こうもわたしの視線に気づいたのか、目が合う。しまった。あんな奴なのに、見つめてたみたいだ。

彼は驚いた顔をしたが、すぐに黙ってペコリとおじぎをした。そして、わたしの手元を目を細めて見つめた。

「なに読んでるんですか?」

彼の言葉にハッとする。手には、イケメンパティシエ氷藤大五郎のスウィートレシピなんて本がある。

「えーっと、お菓子の本……だよ」

「ファンなんですか?その人」

キツネ男の冷めた目がわたしとその本を行き来する。

「フ、ファンじゃないよ!ランキング1位だったから見てただけだよ」

「はぁ」

信用していないのか冷たい刺すような視線は変わらない。