みんな、ときどきひとり


母も母で、なにも見えていないと言った表情で「あと、帯ね」とひとりごとを言ってまた、引き出しの中を手探りで探し始めた。

今じゃないと訊けないかもしれない。

そうとも思う。

わたしが産まれてからずっと知りたかったこと。

今までずっと、恐くて訊けなかったこと。

わたしはダメじゃない。

いつか、水城くんがが言ってくれた言葉を呪文のように心の中で唱えた。

「写真のお母さん、若いね。幾つくらい?初めて見た」

母の手がピタリと止まった。

「何の写真?覚えてないわ」

なんでこんなばればれな嘘をつくんだろう。

そうまでして何を守りたいんだろう。

「隣の男の人は誰?」

少しつり目で長身の男の人。

「だから、覚えてないわ」

「お父さん?」

そう言うと、口を閉ざした。

「身長、高そうだね。顔もわたしに似ているのかな。目とか、鼻とか」

「あんたって子は」と怒鳴るように言うと、わたしを睨んだ。

それから、呆れたとでも言いたげに溜め息を吐く。

「昔から意地悪な子よね。そうやって知ってるのに知らないふりして、試したりして。ほんとに」

試したりしたことなんか、あったっけ。

母の言うことに、心当たりもなく、ただ意味がわからなかった