昔買った雑誌も本棚に並んでいた。適当に手をとってパラパラとページをめくる。

いらなくなったものを全てこの部屋に置いているのかな。

綺麗に整頓されているけど、捨てたほうがいいものばかりある気がする。

弟にすがりつく母らしい行動だとは思ったけど。

「あ、あった」と母が言った。

その声と同時に私の指も止まった。

隠すように挟まれた一枚の古びた写真。

思わず手にしてしまう。

「やっぱり、わたしの記憶力は確かね」と満足気な声がした。

振り返った母と目が合う。

「なにを見てるの?」

「えっ。あっ、雑誌見てるだけ」

慌てて、開いたページの上に写真を置いた。

何かに気付いたのか、「あっ」と小さな悲鳴のような声が漏れた。

そこで滑り落ちた写真は、ハラハラと花びらが舞い落ちるかのように、床にゆっくり落ちて、母の目に止まってしまった。

写真の中ではソバージュパーマにピンクの口紅を塗っている今より若い母と、長身で黒いダウンジャケットを羽織っている男が湖をバックに寄り添っていた。

雑誌の間に挟めていた写真に心辺りがあるのだろう。母は、それを見て固まったままだ。

わたしは、見てはいけないものを見てしまった罪悪感でいっぱいになる。

とっさに、何もなかったかのように写真を拾った。

訊いちゃダメ。

訊いちゃダメ。

わたしの中で、誰かが訴えてくる。