「何が捨てられたんですか?」

「わたし」

言った後、慌てて口角を上げて頬笑みを作った。

笑わばなけれいけない。

またおかしいことを言っていると呆れた顔が浮かんだから。

「なんてね。ははは。お母さん、帰ってくるなだって。笑っちゃうよね。いい歳して」

「喧嘩ですか?」

「ううん。一方的に怒ってるだけ」

「捨てられたんですか?」と、水城くんは訊いた。

「捨てられたのかな。ははは」と、笑った。

「捨てて下さい」

水城くんの声が冷たく心に響いた。

「へ?」

「捨てられたくないなら、捨てればいいと思います」

「え?」

「必要ないものは捨てればいいんです」

そう言うと、口を閉ざした。

雨のせいかもしれない。

傘が小さいから、少しだけ肩を濡らしてしまう。

だから、寒くて、冷たく感じてしまったんだ。水城くんの声を。

きっと、きっと、そうだ。