少し緊張した顔つきでインターホンを押した。

反応がなかったので立て続けに、2、3回押してみる。けれどやっぱり何の反応も無かった。

わたしは、上を見上げた。白くて大きい家。2階の窓は、カーテンで閉め切られている。梨花の部屋。

横では、犬がワンワンとそんなわたしを吠えている。

仕方なく携帯の履歴から番号を探して電話をかけてみた。

しかし、電話は留守番電話にしか繋がらなかった。

「もしもし。優菜です。今、梨花のお家に来ました。具合、大丈夫?少しだけでも会えないかな」

留守番電話にメッセージを残したあと、電話を切った。

せっかく振り絞ってきた勇気をここでゼロにはしたくない。そう思って、見上げた梨花の部屋の窓のカーテンはピクリとも動かなかった。

「本当にいないのかなぁ」と呟きながら、玄関の前に座りこんだ。

もう、めげそうになる。

そんなわたしに、梨花の家の犬は容赦なく吠えまくる。

意味もなく人差し指を立てて「しー」と言ってみた。犬に通用するわけもないのに。

だからやっぱり、犬は横で知らん顔で吠え続けている。優秀な番犬。

何分かそこで座りこんでいると、ガチャッと鍵が開けられた音がしてドアが開いた。そこには、パジャマにカーディガンを羽織った梨花がいた。

「犬、近所迷惑なんだよねぇ」と、座り込むわたしを見下ろして言った。

「あっ、ごめん。ええと、お見舞いに」

駅前で買ったゼリーが入っている紙袋を見せた。梨花はそれを一瞥したあと、「あがる?誰もいないよ」と一言だけ言って、わたしを家にあげた。