「やっばいやっばい!」


5月のある日の朝。

桜井君が走って登校してきた。


「どうしたの、草太!?」


小岩井君が桜井君に聞く。

教室にいた人達も駆け寄った。

女の子にとっては、場所の争奪戦みたいなもので……。


「里美、1番近くいくよ!」


「え、千香ちゃん!?」


千香ちゃんに腕を引っ張られて、桜井君の隣に。


「あれ? 隆史って草太君のこと呼び捨てなの?」


「皆も俺のこと呼び捨てでいいよ」


小岩井君に言ったはずの千香ちゃんの言葉を、代わりに桜井君が返した。


「で、どうしたんだよ?」


別の男の子がまた桜井君に聞く。


「あ、それがさ…」

「桜井逃げるな! 大人しく理事長室に行け!」


体育の先生が桜井君を追っかけてか、走ってきた。


「見つかった…! 悪いけど1組の石田と金堂と、2組の白川に言っといて!」


「え!?」


私にそう言うと、桜井君は先生に連行されて行った。

何を言えばいいの……?


「草太、あれ死んでんじゃね?」

「引きずられてるよ」

「てか理事長に呼ばれるとか何やらかしたんだよ」


周りの男の子が口々に言う。


「みんな呼び捨てなんだ…」


千香ちゃんが呟いている間、私はずっと何を言えばいいか考えていた。