「は? 俺様にアドレス教えた?」
「誠人さんが教えろってうるさくて」
「私の個人情報なんだと思ってんの」
「いや、でもさ、誠人さんに気に入られたみたいでよかったじゃん」
「全然よくない」
「一応助けてもらったんだし、お礼のメールぐらいしとけば? アドレス教えるよ」
「いらない」

一昨日、頬を腫らし、口内を切った私は食事どころじゃなくなり、あの後すぐに帰った。
残って俺様と話す気もさらさらなかったし。
あれっきり、がいい。
やっぱり俺様は好きになれない。
お茶を学食で飲みながら、あいつを思い出すとふとあの人の顔もよみがえる。

「それより、義美さんって彼女いるの?」
「お兄ちゃん? やめといた方が、」

美音の言葉の途中で携帯が鳴った。
電話だ。
ディスプレイを見ると知らない番号。
無視しよう。

「あ、誠人さんかも。番号見せて」

美音は携帯を奪って確認すると「やっぱり!」と頷いた。

「番号まで教えたの?」
「ご、ごめん」
「いいよ。この際だからきっぱり言っとく」

通話ボタンを押す。

「どなたですか?」
「俺」
「俺俺詐欺には引っ掛かりませんよ」
「どーせ美音から聞いてわかってんだろ。――誠人だ」
「あなたから自己紹介されてなかったので今の今まで忘れていましたが、その偉そうな口調で思い出しました」

一昨日、どんな口調で話していたのか思い出せず、変に丁寧になってしまった。

「相変わらず可愛げのねぇ女」
「そんな女に何の用ですか。特に用がないなら電話しないでください。番号消してください。この間はすねを蹴ってごめんなさい。助けていただき、ありがとうございました」

よし、言いたいことは言えた。
文句もないだろう。

「……ちょっと付き合え」
「は?」
「美音の家か」
「違います」
「大学か」
「そうですけど」
「動くなよ。今から行くから」

切れた。
今から来る?
というか、私の謝罪とお礼についてはコメント無しかい。

「場所も言ってないのに? 俺様って馬鹿なのか」
「誠人さん来るの?」
「って言ってるけど」

何なんだあいつは。
ここがどこだかわからない癖に。