「母さん、緊張してきちゃったみたい。
悪いけどちょっとお手洗いに
行ってくるから、そこで待ってて
ちょうだいね。」

賞味期限がとっくに切れている大福餅の
ような顔をした女性は、そう言い残し
そそくさとトイレの方に
駆け込んで行った。

僕は仕方がないのでやれやれと
思いながらもトイレの前で腕を組み
待つことに決める。
ふと、窓を覗くと先刻から
降っていた雨はさらに勢いを増し、
しまいには雷鳴の音が轟くほどに
騒めいていた。
嫌でも聞こえてくるこの雑音は僕の心を
よりいっそう〝不快〟にさせる。
それほどまでに騒がしかったのだ。
あれならば人の足音くらいなら
容易に消すことも可能であろう。