------- Boy's side ----------------------------------------

「……出て来いよ。」
「うん。女の子も寝てるし、妖精さんもいない。魔法、完璧だね。」
「何か用があんのか?」
「うん。ちょっと、君に、ね。」

 出てきた奴は、不吉な笑いをした。
 そいつは真っ黒な羽を持っていた。

「お前、悪魔だな。」
「なりたくてなったわけじゃないさ。」

 この世界での悪魔は心が闇に染まった人である。不安、苦しみ、怒りなどといった負の感情が悪魔に変えてしまうのだ。

「リンたちの目を覚まさせろ。お前がやったんだろ?」
「えー。そこは感謝してほしいところなんだけどなぁ。」
「はぁ??」
「だって、君はその子に戦ってる姿見られたくないんでしょ。」

 その通りだった。
 たしかに、リンに戦ってるところを見せたくないと思っていた。

「なぜ、それを知ってる。」
「…ララ、って覚えてる?」
「!!」
「ララ、痛かったよね?大丈夫。あなたの代わりにこの人は、この手で。ララのところに送ってあげる。」

 そいつの目は赤黒く、その目で俺のことをじっと睨んでいた。





------- Rin's side ----------------------------------------

『…リンさん。私の声、聞こえますか?』
『んっ。……ここは?』
『夢の中、とでも言っておきましょう。』

 今までいた世界とは逆の真っ暗な世界。
 どこからか聞こえてくる声は、ここは夢の中だと言う。

『私、寝ちゃったんだ。』
『すみません。全て私のせいです。』
『でも、葉っぱから聞こえた声と違う気が……?』
『あの声は、私の1番の友達の声です。本当はとても優しい人なのに、私のせいで…。お願いします。力を貸してください。』

 フワッ。

 やわらかい風がふいたような気がして少し目をつむった。すると、私の前に女の子が現れた。私と同じような真っ白なワンピースに、ふわふわなボブの髪のかわいい女の子だった。

『私の友達も、あなたの友達も危ないんです。このままでは2人とも死んでしまいます。』
『えっ!?』
『私、2人を助けたいんです。』
『あの、どうして彼のこと知ってるの?』
『あっ、すみません。私ララといいます。前に彼にお願いをしたことがあったので。』
『お願い??』
『私を殺してほしい、とお願いしました。でも、その時に。』


『そんなことして、残された人のこと考えたことある?ここでも、あっちの世界で生きようがお前は1人で生きているわけじゃないだろ。』


『……って。私、その言葉に救われました。結局、私は死んでしまいましたが、今でも感謝しているんです。』
(……今、この人、死んでるって言った?)
『なんでこの人が生きているの?』
『!!!』
『って、顔してますよ。笑』

 顔に出てしまった。前にもこんな場面があった気がする。
(……気をつけよう。)

『実は、私もよくわからないんです。でも、よかった。だって、2人を助けることができるんですから。お願いします、リンさん。私、………。』






------- Boy's side ----------------------------------------


「ほら、守ってばかりじゃ負けるよ?」
「…………っ。」

 シールドに剣があたり、鈍い音が辺りに響く。

「てか、ストロガンって攻撃魔法が得意なんじゃないの??シールドって防御魔法じゃん。」
「だから、何?」
「戦う気が無いなら、さっさと倒れろ。」
「………嫌だ。俺には守るものがある。」
「じゃあ、何でララを見捨てた。」
「それは………。」
「……今だ。」

 シュルッ。

(速い!……間に合わない。)

 後ろからつるがすごい速さでのび、腕や足に絡まってくる。

「つかまえた。」

 腕や足につるが絡みつく。身動きがとれない状況になった。そして、後ろの樹に向かって引っ張られ、叩きつけられた。

「………っ。いって。」
「ずっと樹に背を向けるのを待ってたよ。ヴァイセにはこうやって、ものに命令して攻撃に変える使い方もある。覚えておいた方がいいよ。」
(………見えない。)

 叩きつけられた衝撃で頭を打ってしまったらしい。視界は狭まり、意識が遠くなるのを感じた。
 かすかに足音が大きくなる。自分の方に近づいてくる。

「もう終わりだ。その体じゃ動けない。」

 薄れていく意識の中で立ち上がろうとするがうまく立てない。何度立とうとしてもすぐに倒れてしまう。

「もうフラフラじゃん。無理だ。お前は弱い。」

 シュッ。

「!!?」
(…魔力切れ!?)
「シールドを作り出す魔力も無いか。」
「………っ。」

 左の頬に傷がつく。シールドを出すことができず、相手の剣がかすってしまった。

「今度はちゃんと狙うよ。」
「………。」

 正直、もう無理かと諦めてしまった、その時だった。



「!!?」
「どうして動けるんだ。」
「あなたを助けたいからです。リィト。」
(リン、…?)

 リンの姿をしている少女がこっちに近づく。そして、俺の手をやさしく握って笑いかけた。

「ありがとうございます。よくここまで耐えてくれました。あとは私が。」
「……あなたは、リンじゃ、ない。」

 リンの姿をしている少女はうなずいた。

「なぜ動ける。」
「……彼女の身体を借りたの。リィト、あなたのために。私のこと、わかる?ララだよ。」
「まさか!そんなわけない。」
「お願い。信じて!」
「ララは、もうこの世界にはいない。きっと、あっちの世界で……。」
「私、あなたに会えてよかった。本当に幸せだったの。でも、今のリィトは私の大好きだったリィトじゃない!!私が死んだのは彼のせいじゃない!あっちの世界の私の命が無くなったからだよ!」
「……嘘だ。コイツがララを殺す瞬間をこの目で見たんだ。」
「私が頼んだの。」
「何のために!?」
「……俺が、話すよ。…っ。」
「大丈夫?」
「うん。何とか。……リィト、だっけ。一応聞くけど、『暴走』って知ってるか?」
「あぁ。でも、それは自分の心が闇に染まった時に起こることだ。それとララを殺したことと何の意味がある。」
「この世界で『暴走』を起こす原因は2種類。1つはさっきのように心が闇に染まった時。もう1つは死の瞬間なんだ。」
「!!」

 リィトもこれは知らなかったらしい。少し表情が変わった。

「ララに頼まれた時に一度は断ったんだけど、リィトの前で『暴走』を起こしたくないって。だから、その時が来るまでは殺さないとララに約束したんだ。でも、結局殺したのは俺だ。ずっと、苦しんでたんだろ。ほんと、悪かったよ。ごめん。」
「わかったでしょ。この人は私のために…。」
「だから、何だという。」
「えっ。リィト?」

 リィトの様子が今までと違った。殺気に溢れたように刺々しく、真っ黒だった。
 そして、その刺々しさとは裏腹に、悲しそうな目をしていた。

「ララを殺したという事実は変わらない。お前を許さない。……早く、逃げて。体が、勝手に……。」
「リィト!?」
「……ヤバいぞ。もう少しで、黒く染まる。」