------- Rin's side ----------------------------------------

「はあぁぁ…………。」

 長い長いため息をついた。
 私の右手が使えないことが判明したからである。左手は大丈夫だったのだが、右手を使えないショックは相当大きい。

「まぁまぁ、右手くらい使えなくてもどうにかなるでしょ。」
「右手が使えなくなったことがないからわかんないんだよ!!右手だよ!利き手だよ!困るに決まってるでしょ!!」
「やっぱりそう思うか。笑」
「思うでしょ!!(`^´o)」

 私の右手はたしかにある。動かすこともできる。でも、何かにさわったりしようとすると、すり抜けてしまう。ほとんど使えないのと一緒だ。

(あぁ。どうしよ…。)

「じゃあ、俺がリンの右手になるよ。」
「??」

(えっ。それって、もしかして…。)

「腕、取り外せたりするの…?」
「いや、それはさすがにムリです。」

 まさかと思って聞いたけど、ちょっと引いた。腕を取り外すとか、……考えたくもなかった。


「そういうことじゃなくて、リンの力が必要なんだよ。」
「私の??」
「うん。だから、一緒に旅に出よう!」
「は?!旅?」

 彼は当たり前のことのように言った。
 きっと、今の私はすごい間抜けなきょとんとした顔をしてる。

「(´ºωº`) 」
「大丈夫。旅ってくらいすごいことするわけじゃないし、俺けっこう強いんだよ。」

 ニコッと笑いかけてくれたけど、不安で仕方がなかった。旅に出る不安よりもこっちの不安が強かった。

(この人、ほんとに大丈夫かな…。)


「…ってことで、まず仲間を増やそう!」
「いや、ムリでしょ。」

 私はきっぱりと言いきった。この辺り一面白いだけの世界に何もある気がしないからだ。

「なんで??」
「だって、ここ何もないじゃん!誰もいないじゃん!!」
「うん。」
「うん!?」
「だって、ここ空の上だし。」
「??」
「でも、1つだけ。いいことがある。」
「?」
「ここは、ゲームの世界みたいなもんなんだよ。だから、魔法も剣とかも何でもありの世界なんだよね。」
「??あの、意味がわかんないんです。」

 いきなり空の上だとかゲームの世界だとか言われても意味わかんないですよね…。

(でも、魔法使えるのはいいかも。笑)

「………ねぇ。リン聞いてる?」
「ごめん!何て言った?」
「だから。俺達が仲間を造るんだよ。」
「…いや。ムリでしょ。」

 ほんとに魔法があるのかもしれない。でも、それはさすがにムリだと思った。

「いやー。それがさ、できるようになるアイテムがあるんだって!」
「…………。」
「…何、その疑いの目。(¯―¯٥) 」
「それを信じてくれって思う君もすごいと思うんだけど。」
「まぁ、たしかにね。笑」

 やっぱり、この人大丈夫なのかと改めて思う。でも、話はどんどん進んでいく。今更旅をしないなんて断れない。
 そんな不安を抱えていたが、魔法が始まろうとしていた。彼が取り出したのは種のようなものだった。そして、今からやる魔法について説明してくれた。

「まず、この世界には得意な魔法が種族によって違うんだ。リンは[シャイト]。光魔法と防御系が得意なんだ。」
「へぇー。」
「ちなみに、俺は[ストロガン]。攻撃が得意だけど、闇魔法も少し使えるんだ。他には火力魔法は[ファイアリー]、水と回復系は[アクター]、音魔法は[ヴァイセ]。こんな感じかな。」
(そんなことを一気に言われても覚えられないけどね…。)
「…で、今からやる魔法は。……。」

 そっと、耳元で教えてくれた。まるで、誰かに聞かれたくないようだった。

「…ねぇ。そんなことできるの?」
「大丈夫!リンの集中力が高ければだけどね。笑」
「で、できるよ!!集中力あるもん!!」
(たぶん…。)
「まぁ、やったことないんだけどね。笑」
「えっ??」

 人生初の魔法が始まった。


「じゃ、始めるよ。」
「う、うん。」




------- Boy's side ----------------------------------------

 これからする魔法。それは仲間を造ることだ。しかも、[シャイト]と[ストロガン]がそろったときにしか発動できない。

(リンが[シャイト]でよかった。)

 まず、さっきリンにも見せた種を地面に落とした。芽はすぐに出てきて、双葉になる。

 ガリッ。

「ちょっと!何やってんの?!」
「何って、血出したんだけど。」
「かじって血出したよね!?大丈夫?」
「大丈夫。リンはしないから。」
「いや、そういうことじゃなくて…。」

 リンは心配そうな顔をしてこっちを見ている。
(なんか、名前を教えてからリンの表情が変わったように見える。)
 最初、リンは目に光が入っていないようだった。今は、ちょっと表情が豊かになった気がする。
(こんな顔させるつもりはなかったんだけどなぁ…。)

 そんなことを思いながら血は少しずつ垂れていった。