「ねぇ。名前、なんて言うの?」

 名前を聞いた。初めて会った友達のように。もちろん、俺は彼女の名前を知っている。でも、聞いてみようと思った。
 彼女の目に、光が入っていないように見えたから。

(…まさか、ね。)


------- Girl's side ----------------------------------------

「ねぇ。名前、なんて言うの?」
「えっ。…名前??」

 名前を聞かれた。
 初めて会ったのだから、当たり前だと思う。でも、よく考えてみると何もわからなかった。

(…あれ?私の名前、思い出せない。そういえば、ここに来る前の記憶も、ない。)

「あっ…。…えっと。……。」

 どうしよ…。

「…もしかして、わかんないの?」
「うっ。……(ノ_-。)」
「図星…。」
「(╥ω╥`)」
「そりゃあ、その感じを見たら誰でもわかるよ…。」

(あぁ。言われちゃった。)

------- Boy's side ----------------------------------------

(…マジか。)

 最悪だ。この世界で1番面倒なヤツだ。でも、あの世界に帰してあげたい。だから。

「リン。」

「…っていうのは、ダメかな?いいと思うよ。君の名前に。」

 あの世界と同じ名前。少しでも、記憶を取り戻す助けになれば……。

------- Girl's side ----------------------------------------

 リン。

 彼は、私のことをそう呼んだ。私は自分の名前を知らない。でも、[リン]という名前は、どこか懐かしい感じがした。
 胸の奥にある心地よい痛み。そして、少しずつあたたかくなる。
 涙がこぼれた。

「えっ?!!どうした?!」
「…わかんない。」
「??何が。」
「あなたの心が。そして、自分も。」

 彼がどうして私の名前を言ってくれたのかわからなかった。この胸の痛みも、何もわからなかった。

「…。じゃあ、わからないなら知ればいいじゃん。」
「?」
「君は、これからどうしたいの?今、どう思ってるの?言ってみて。」
「私は…。」

 大粒の涙が1粒、2粒と流れていく。

「あなたに名前をもらって、うれしい。」

 私は手で顔を隠した。
 胸の痛み、顔がぽわぽわとあたたかくなることすら心地よいこの感覚が、私の中に無かった何かを取り戻せた気がした。


「…なんだ。わかってるじゃん。自分の気持ち。」

 彼は、顔を隠していた私の手をスッとよけた。また、目が合った。

「そういうときは、『ありがとう』って言えばいいんだって。俺もそう教えてもらったんだ。」
(……初めて、笑った。)

 きっと、それを教えてくれたその人は彼にとって大切な人なんだろうなぁ、と思った。

「そうなんだ。えっーと。」

「ありがと。」

「…で、いいんだよね。」
「////うん。」

 私も笑った。とびきりの笑顔で。


 きっと、私たちは出逢った瞬間から、心奪われていたんだ。
 だって、初めて会ったこの人と一緒にいたいって思ってしまうのだから。



「私、リンっていうの。よろしくね!」
「…うん。」

 私は右手を出した。それを見て、彼も手を差し伸べてくれた。手を繋ごうとしたとき、

 スッ。

「えっ。」

 私の手が、彼の手をすり抜けた。