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 リンの手術の日が過ぎて1年ほど経ってしまった。リンはあの日から一度もここに来ることは無かった。
(リン、どうしちゃったんだろう…。せっかく、窓から顔が出せるようになったのに。)
 俺は窓から顔が出せるようになった。パソコンがのっている台にのると、ちょうど窓の高さになることがわかったのだ。しかし、昔は窓を通れそうなほど小さかった身体も、今は成長して通れそうにない。
「………はぁ。もう僕のことなんて忘れちゃったんだろうなぁ。」

 トンットンッ

 静かな足音が聞こえる。ベランダに誰かが来たみたいだ。
(誰かなぁ。)
 一旦パソコンを床に置き、台を窓の下に移動して窓の外を見てみた。すると、綺麗な黒髪を二つ結びした1人の少女がいた。その少女はベランダに落ちていた鳥の羽を拾って、くるくると回した。そして、青空を見てこんなことを言った。
「…鳥はいいなぁ。」
(リン!!)
 声を聞いてすぐにわかった。でも、様子がおかしい。悲しそうな顔をだったし、俺に声をかけてくれる様子でもない。
「こんなにきれいな青空を自分の羽で自由に飛んでいくことができるもん。私にも羽があれば、どこまでも飛んでいけるのに…。病気のことなんか忘れて、自由に生きていけるんだろうなぁ。……手、冷たい。鳥は羽があるから温かいのかな…。」
 少女がベランダから少し身を乗り出す。
「…あっ!ダメ。」
「えっ!?」
(ヤバイっ!!)

 ゴツンッ。

「いった……。((ヒリヒリッ」
 台から足を踏み外して、腰を床に思いっきり強打してしまった。
「あの……。大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。…ねぇ。君、リンだよね?僕のこと、覚えてる??」
「……ごめんなさい。私、手術する前の記憶が曖昧なの。そっか、私、リンって呼ばれてたんだ。」
「…うん。そうだよ。」
(記憶。なくしちゃったんだ…。)
 ショックだった。無意識に返事も素っ気なくなってしまう。
(…でも、せっかくまた会えたんだ。前みたいにもう一度仲良くなればいいんだ!今度は僕から話しかけなきゃ!)
「僕達、前はこうやってベランダ越しにだけど、よく話してたんだ。だから、リンは記憶が曖昧かもしれないけど、途切れた話の続きをしよう。……ダメ、かな?」
「…ううん。すごく、嬉しい。一緒に話そう!!」
「よかった。リンならいいって言ってくれるって信じてた。」
「どうして?」
「手が冷たい人は、心が暖かい人なんだよ。だから、リンは優しい人なんだよ。」
「そうかな。…そうならいいな。(*´ ˘ `*)」

 2人の日常が戻った瞬間だった。

 俺たちは、昔のように毎日楽しく話していた。暇さえあればリンは来てくれるし、自分の中にも『会いたい』という気持ちが芽生え、それはどんどん大きくなっていった。今日もいつもの日々と同じように会話をする。
「おはよう!一緒に話そう!」
「うっ、うん。」
 俺は、彼女(リン)を意識し始めていた。彼女が来るのが、毎日待ち遠しくて頭から離れない。いざ話そうとすると意識して上手く言えなくなってしまうことが多くなった気がする。
「き、今日もいい天気ですね。」
「そうだね。笑」
(うわっ。第一声から噛んでしまった…。)
 こんな感じだ。こんな気持ち初めてだったから、自分でもどうしたらいいのか、この時はわからなかった。

 リンとの会話が再開するようになってから数日、髪が伸びてきて、腰辺りまでになった。
(そろそろ切られるかな…。よくよく考えてみると、男なのに髪長い姿をリンに見られたくないなぁ…。でも、切られるのも嫌だなぁ。会いたくない。)
 せっかく窓から顔を出せるようになったのに、俺はまだリンと顔を合わせてない。あの日、リンの姿を少し見たきりである。俺は窓の下の壁に背中をあずけて座った。小さくため息もつく。そこにリンがやって来た。
「やっほー!今日も来ちゃった。おはよう!」
「…おはよ。」
「どうしたの?なんだか元気ない声してる。」
「…ちょっと、考え事してた。ねぇ。リンって夢ある?」
「私の夢?」
「うん。僕の夢は、勇者になることなんだ。本とかでよくみる何でも守れる強い勇者になりたいんだ。でも、僕なんてちっぽけで、全然弱くて……。」
「たしかに。笑」
「えっ。」
「勇者になったら弱そう。もっと自信を持って堂々としないと!!例えば…、僕を[オレ]にしてみたら?」
「……(((-"-)ムカッ」
 俺は立ち上がった。リンの今の言葉でビクビクと怯えていた気持ちが全てふっとんだ。
(弱い?そんなことないさ!絶対に強くなってみせる!何より、女の子に弱そうって言われるなんて……!!何だって守ってみせるさ!)
 俺は大きな声でこう言った。
「オレ、勇者になる!今よりもーっと強くなって、大切なものを守るんだ!!」
 すると、彼女は笑って、
「じゃ、これからは[ユーシャくん]って呼ばないとね!」

「リンは大きくなったらどうするの?」
「私は、大きくなったらね…。ユーシャくんに会いたいなぁ。この壁も目の前から無くなって、私の目も見えるようになるの。目が見えるようになって、初めて会う人が、ユーシャくんがいいなって。」
「うん。それは、オレもだよ。オレもリンに会いたい。」
「じゃ、この夢は…。」







 「これからは、俺等の夢。」
 「これからは、私達の夢。」