「……ぇ。起きて。………起きてよ…。」

 かすかに誰かの声が聞こえる。
(あぁ。きっと、この声は……。)

「…起きてよ。ユーシャ。」
「……んっ。」
「ユーシャ!!よかったぁ。」
「リン!??」

 目の前に、泣いて目が赤くなったリンがいた。リンは俺に飛びついてきた。

「……全然目覚まさないから、心配したよ。」
「ごめん。」
「…バカ。」

 ただ謝ることしかできなかった。
 実際、攻撃魔法を使わないようにしていたのは事実だし、無理しすぎたと思う。

「……ずっと、見てたよ。」
「えっ?」
「ララさんを通して、ユーシャとリィトのこと見てた。ユーシャもリィトも悲しい目をしてた。もう、1人にならないで。」

(1人にならないで、…か。)

 今はリンと一緒にいるから1人ではない。
 だから、そういう意味で言ったのではないと思う。

「人には、心の雨があるんだ。」
「心の雨?」
「うん。人はみんな完璧じゃない。苦手なことだってあるし、自分のことが嫌いになる時だってある。悲しくなる時だってある。そんな時に心の雨は降るの。でも、涙と同じようだけど、目には見えないの。」

 リンが心の雨について語った。

 俺は心の雨が降り続けているのかもしれない。ずっと自分のことが嫌いで、そんな自分を嫌っている自分に腹が立って、いつの間にか周りには誰もいないこの世界に来て、いつから俺の心の雨は振り続けているのだろう。
 リンと目が合う。まだ真っ赤なリンの目、その目に映る自分の目。透きとおったリンの目と違い、迷いのある曇った自分の目。見ていられなかった。そして、静かに目を閉じた。
 俺には誰かといるということがまぶしすぎたのだろう。



 コツン。

「…早く、ユーシャの心の雨がやむといいなぁ。1人になってほしくない。」



------- Rin's side ----------------------------------------