だから俺が買ってきてやると言ったのにと。

巽は隣で呆れた顔をする。

巽と環の持てる共通の時間は実に少ない。

その為こうして、昼食だけでも一緒にとろうと環が提案したのだ。

本当は店内で談笑でもしながら食べたかったのだが、店員にあっさりと正体を見破られるくらいだ。

店内での食事はとても無理だろう。

そもそもサングラスをかけただけのお粗末な変装では、看破されるのも当然というもの。

「近くの公園にでも行くか」

ハンバーガーの袋を持って、巽が歩く。

「巽さん、バイクじゃなくて車にして下さいよ。そしたら車内で食べられるのに」

唇を尖らせる環。

「俺のバイクを馬鹿にするのか?元々レース用としてチューンアップされたのを、公道用にデチューンしたエンジン、パワーアップに対処する為に大型オイルクーラーへ換装すると共にサスペンションとフレームを強化、最大出力170ps、最高時速270キロ、ゼロヨンタイム10秒、前照灯脇に赤色点滅灯を備え、緊急走行が可能な…」

「はいはい、バイクの蘊蓄はまたね」

まくし立てる巽を、環は適当にあしらう。