「なんでって、そんな理由いる?
俺は美湖の彼氏だろ?」


「ねぇ田中く、」

「ほら帰るよ」


ずかずかと教室に入ってきた田中くんに、ぐいっと腕を引かれる。


「私 爽くんを待ってるの、だから―……っ」


パシンッと乾いた音がした。

そして少し遅れて左の頬が熱を伴いながらじんじんと痛みだす。



わたし……なにを、された?


私は、田中くんに、なにを――



(殴られ、た……?)


田中くんは、呆然と立ち尽くす私の鞄と腕を掴んで引きずるように歩いていく。


歩くスピードが速くて、息が切れる。


ああ……爽くん、驚いてるだろうな……。