「…それが人にものを頼む態度、でございますか?」

決まった!そう思ってちょっと悦に入っていたら、いきなり冷水をぶっかけられた私の身にもなってください…。

「教えて下さい!お願いしやす!姐さん!!」
「だから、私はお嬢様の姉ではございません。」

ああ、やっぱりSなのね。ドSなのね。人に冷たく接していなければ満足出来ない性質なのね? で、それでもボケずにはいられない私はM、と…。ちょっとショックかも。

「まず、その言葉遣いを直してくださいませ。今朝までは、そのような口調では無かったではございませんか。」

だから記憶無いんだっては。

「全く…この有様では、陛下に謁見など出来るわけがない…。」
「へいか」

へいか、へいか…あ、陛下ね。

「…陛下?」
「国王陛下への謁見が、この後控えております。」

な…なんと!それを先に言いたまへ!!

「どどど、どうすればいいの!?」
「落ち着いてくださいませ、お嬢様。周りの注目を集めております。」

周りを見ると、扇子で口元を隠した美しいご婦人方が、こちらへ視線だけを向けていた。それでいて全く別の話をしている。器用だな、おい。

「お嬢様、こちらへ…。」

エステルが私の手を引っ張って人混みの中をするすると抜けて行く。蛇みたいだ。

やがて、物置のような場所に着いた。といっても、結構な広さがあるのだけれど。

「良いですか、ここで作法を練習致しましょう。時間がございません。」

「…聞いてもいいかな。私、今までどうやって謁見していたの。」
「存じ上げません…が、噂では…。」

少し躊躇ってから。

「マナーは完全に無視、『ごきげんよう』とだけ言ってさっさと帰っていたそうです…。」

聞かなきゃ良かった…いいや、これは私じゃない私じゃない…。

「とにかく、始めますよ!」

パン、とエステルが手を叩いて仕切り直した。
そうそう、これからが大事なのよ、これからが。