彼女を閉じ込めた





のっぽの彼が朗らかに笑う。
その笑い方があんまり屈託がないから、私も毒気を抜かれてしまった。


初めて言葉を交わしたと思えないくらい、彼は自然に打ち解けてくれる。
今の身体の近過ぎる距離と同じくらい、それはイヤじゃない。


多分私の嘘なんか見抜いてるんだ。
元々内気だし地味だし、男の人と付き合ったことなんてある訳ない。
髪だってちょっと茶色く染めて巻いたりしてみたいし、ピアスも空けてみたいけど、いつも勇気が出ないんだ。


でも見栄ぐらい張りたかった。
いかにも真面目ですって見た目を裏切るような事を言って、彼に印象づけたかった。
まあ、見事に失敗したみたいだけど。


可愛いなんて、絶対お世辞だ。
多分モテるのは彼の方。女の子にそういう事を言い慣れてるに決まってる。
今だって、何か面白そうににやにや笑ってるし。


私はきっと彼の中で、バカ女カテゴリに分類されたのだろう。
うわーい。彼の記憶に残りました。やったね千春ちゃん。…………。


一人黄昏ていたら、ふと頬に優しく触れたもの。
───彼の手だ。


男の人らしい大きな掌が、私の片頬を包むように触れていた。
もちろん驚いた私は、慌てて彼の顔を見上げる。
彼は少し身を屈めて、私の耳元に囁いた。



「男の免疫、付けてやろうか」



やっぱり、嘘だって見抜かれてた。私は完全にフリーズだ。全身凝固。
何なのこの展開。意味が分からないよ神様。
電車はまだ、駅に着かない。