握った手の小ささに、溜息が出そうになった。
肩だって細くて華奢で、指に触れた髪だって滅茶苦茶柔らかかった。
女の子ってこういう生き物なんだなと改めて感心した。
近くで見たら一層可愛いわクソ。


俺の制服の胸に素直に縋ってくれた手は、遠慮がちに触れているだけなのに。
俺にとってその手は、すごく重くてすごく温かいものだった。


いつまでも握っていたかったが、流石に不自然だから離して、俺は再び手をガラスに着き、彼女を腕の間に囲い込む。
車窓の景色が流れていく間、互いの近過ぎる距離の狭間に落ちる沈黙は、そう気まずいものでもなかった。


視線を下ろしても、俯く彼女の表情は分からない。
でも髪糸のあわいから覗く耳先は、何だか赤く染まっている。
成る程。少し意地悪な気持ちが込み上げてきた。



「なぁ、耳赤ぇぞ」


「え」


「お前さあ、男に近付いた事ねぇんだろ」


「はい??」


「お嬢様学校だもんなー。男慣れしてねぇのも当たり前か」


「……」



つい悪い癖が出て、からかってしまった。
好きな子に意地悪言うって、俺は小学生か。
ほら、せっかく顔を上げてくれた彼女が困ってる。
まさかこのぐらいで泣き出したりしねぇだろうな。



「……ります」


「は?」


「男の人と付き合ったことぐらいありますし!」


「……」


「手ぐらい繋ぐのちょろいですし! ハグしてキスするのも日常ちゃめしごとですし!」



それを言うなら日常茶飯事じゃねぇのか。さはんじだよお嬢さん。
動揺があからさまだ。何だこの可愛い生き物。


俺が今まで付き合った女に、こういうタイプは居なかった。
もう駄目だ。腹筋がやばい。



「ぶははは! そんな必死になんなくていいって。
 分かったよ、モテモテなんだなあんた。まあ可愛いもんな」


「……」



あ、黙った。でもみるみる頬に血が上って、顔が赤くなっていく。
からかい甲斐が有りすぎだろこのちっこい生き物。