忙しいのは大瀬さんだけではない。
常に人手がカツカツなうちの会社は、誰もが余裕のないスケジュールに追われている。
この会社に中途入社して、一番びっくりしたのは、社内の静けさにだ。
集中してパソコンに向き合っている製作チームの邪魔をしないように、必要最小限のことを小声で喋り、電話も静かに回す。
会議や打ち合わせは多いけれど、それ以外の場での会話は殆どない。とにかく無駄をなくして効率的に、というのが会社のモットーだ。
最初は息が詰まりそうだったけれど、慣れてきた。
割り当てられた仕事さえこなしていればいいのだ。変に人間関係で気を遣うこともない。
上司にお茶出しする習慣はないし、お局様もいない。雑談をしないから、噂話も流れてこない。
仕事を一緒にするチームとしては一丸になるけれど、公私混同はしない。
“敷島さん、シャンプー変えた?”
あんな風に、打ち合わせ中に私語を交えたのは初めてだ。
男は大抵、匂いフェチと柏葉さんが言っていたのは、本当だったのか。
早速効果があるなんて凄い。

