恋の心理学を実践しましょう?






「敷島さん、シャンプー変えた?」


 不意に言われて、ドキンとした。

「いい匂いが漂ってくるなあと思ったら、敷島さんだった」

 謎が解けた名探偵のようにスッキリした表情で、わたしを真っ直ぐ見て大瀬さんが言った。
 黒目がちの印象的な瞳には、目力がある。びしっと胸の奥まで射抜いてくる矢のようだ。


「あ、ああのっ……柔軟剤です。家の柔軟剤が変わったんで」

「へえ、柔軟剤。匂いのカプセルが弾けるとかってやつ? ほんとによく香るんだね」

 柔軟剤メーカーの回し者みたいだけれど、オススメですと答えた。

「あ、ごめん。で、続き。このアクセス解析レポート、参照元メディアのところね。URLからサイト名を割り出して。明らかにスパムなのは削除して、繰上げ50位まで。それとここ、オーガニック検索。長いキーワードが切れてるから、全部表示されるように、セル結合して縮小ね」

 仕事の話に戻った大瀬さんは、次々とレポートをめくって訂正箇所を指摘した。

「毎回作った後、プレビュー見てるよね?」

「すみません、見てるんですけど……以後、気をつけます。すぐ直します」

「これは水曜まででいいから。ルフェーネのブログのほうが急ぎで、お願いします」

「はい、分かりました」

「よろしくお願いします」

 話している途中で、WEBデザイナーの宮田さんがやってきて、わたしたちが話し終わるのを待っていた。
 会話が終了するなり、

「大瀬さん、ちょっと打ち合わせいいですか」

 大瀬さんに声を掛けた。

「あ、はい。行きます」

 一人で二十数サイトを担当している大瀬さんは、忙しい。