恋の心理学を実践しましょう?


 柏葉さんの言葉になるほどと頷く。

「じゃあ香水を……?」

「香水は嫌いな人も多いからね。香りが強いし、個性的な香りのものもあるから、万人受けはしない。シャンプーの香りくらい、ふわっと控えめに香るのが理想だね。だけどシャンプーやヘアトリートメントの香りは、よほど接近しないと香らないからねえ。ちょっと僕の匂いを嗅いでみてくれる?」

 くいくいっと手招きされて、カウンター越しにおずおずと首を伸ばす。

 すっと身体を近づけてきた柏葉さんからは、ふわっと花が咲いたような良い香りがした。
 ドキっとしたのは、近すぎた距離にだ。

「ね? このくらいがいいでしょう? これはアロマタイプの柔軟剤。衣服に着く匂いって、結構残るからね。最近じゃ着たときにより香るタイプの柔軟剤もあるし。敷島さんは、普通の柔軟剤を使ってるでしょう」

 図星だ。洗濯は母親に任せっぱなしで、柔軟剤にこだわりはない。
 貧乏性の我が家のことだから、きっと安物の普通の柔軟剤を使っているのだろう。

「今日の課題は、アロマタイプの柔軟剤を買って帰ること。ふわっと良い香りがする服で出勤して、大瀬さんの嗅覚に訴えましょう」

「はい」

 ノートに取りながら復唱する。
 うちのオフィスは私服で、毎日何を着ていこうかと迷ってしまう。お金は無いし、センスも無いし。
 香りで良い印象を上乗せできるなら、お手軽だ。

「あ、柔軟剤メーカーの回し者じゃないからね」

 柏葉さんが冗談混じりに笑う。
 笑顔がとても柔らかく見えるのは、目尻が少し下がっているからだろうか。
 常に微笑んでいるように見える。