恋の心理学を実践しましょう?



 わたしの反応の鈍さに、柏葉さんが申し訳なさそうな顔をした。

「いっいえいえいえ、すっごく素敵です! でもこんな高価そうな物……」

 やすやすと受け取っちゃっていいんだろうか?

「大丈夫、そんなに高い物じゃないから」

「でもわたし、このレッスン自体、タダで受けさせてもらってるのに……」

 柏葉さんには何のメリットがあるんだろう。

「あー……何度も言うけど、それは全然気にしないで。こちらこそ、協力してもらってるわけだし」

「え?」

「僕の研究に。心理学の研究」


 ああ、そうか。研究と聞いて、すとんと腑に落ちた。


 柏葉さんは心理学の研究者だ。専門の大学を卒業して大学院も出て、心理カウンセラーとして経験を積んだ後、臨床心理士の資格を取った。

 次の職に就労するまでの間に、論文を書き上げたいそうだ。
 
 別に遊びでわたしの恋を応援してくれているわけではない。
 柏葉さんにとっては、これも研究の一端なのだ。

「あ、勿論実例としては出さないし、睦美ちゃんと大瀬さんのプライバシーは侵害しないと、誓います」

 清らかな宣誓がなされた。