片想いの日々は一日一日と
過ぎて行き
彼はどんな人なんだろう?
どんな事に笑いどんな話をするんだろう?
そう思うようになった。

名前も知らない
歳も分からない

分かるのは
がんばり屋さんで
真面目で手際が良くて
一生懸命でクールなこと


だけどなんとなく心に闇を感じた
ただ能天気に生きてないな、って。

挨拶をした時にはにかんで笑う彼の瞳の奥が
私にはやけに黒く映った。

言わなくても
分かる。

きっとその時の彼には
私なんて同じ職場の一人でしかないし
なんの感情も無かったのかもしれないけど
私には彼の目は何かを訴えてるようにしか見えなかった。

自分でも不思議。
どうしてそう感じたのか、
そしてそれはただの思い過ごしなのか。

恋心とは別に彼を思う気持ちが
増していった。

『私に何か出来ないかな…。』

彼は孤独のように見えた。
もっとも…人間なんて誰しも孤独だけど。

私の思い過ごしだったら
本当恥ずかしいし失礼だから
いきなりそんな風に話しかけるのはやめようと思った
いずれ職場で仲良くなるまで待とうかなって。


でもそんなの難しくてね。
幼稚園から一緒の2つ上の友達に相談することにした。

仕事から帰ると真っ先に
ケータイを取り出して連絡帳を開いた。
あ行をスクロールしながらも、まだ私の心には彼がいて
心臓をトクン,トクントクンと不規則にさせていた。

お呼び出し中…の文字を見つめながら
まず何を話すかを考えていた。

『はい、どした?』

いつもと変わらない彼女の声がした。

『亜希ちゃん、体調どう?お腹。』

私はすぐ彼女の体を心配した。

『あぁ!もうね、つわり終わったんだよ。食欲やばくて。』

妊婦の亜希ちゃんは電車で40分くらいの所に
旦那さんと暮らしている。
仕事の都合もあって
半年くらい会ってなかった。
電話も久しぶりだった。

普段からケータイのトークアプリでやり取りしていても
電話となるとまた違う。
元気だと分かっていても 元気?と聞いてしまう。


『何、どしたの(笑)?』

そう尋ねてくる亜希ちゃんに私は

『ねぇ、やばい。恋したかもしれない。』

と打ち明けてみた。

『えー!まじで(笑)?どんな人?職場?』


食いついてきた…(笑)

『えっ、もうめっちゃかっこいいの!!
挨拶したら超爽やかスマイルくれて!』

なんて浮かれて話す私。

『あのそれでね、その好きになった子ってさ
女の子なんだよね!(笑)すごいボーイッシュなんだけど。』

と話す私のテンションを上回り

『まじか!!ののか目覚めたか(笑)!?』

なんて冗談まじにり言ってきて

『いやっ、目覚めたってゆうか、
なんだろ(笑)たまたま?好きって感情になったのが
相手を知るよりも先だっただけかな(笑)?』

ってそんな風に答えた。

『えー、でもののかが
好きだってそう思うならいいんじゃん?
連絡先聞いちゃえよ!☆』

なんて茶化してきて。

『えーでも無理だよ!
名前も知らないしすれ違うしかしないもん!』


…そう。実際話す機会なんて無いし
仕事上話しかけるのも彼の部門の上司だから
理由を作らない限り声はかけられないのが現実だった。


『まぁ恋したかもって報告だからさ!(笑)』

私がそう話すと


『うん、なんか良かったじゃん!
元気そうで安心したよ!また進展あったら教えて。』

そう言う亜希ちゃんに
お礼と返事をしてその日の電話が終わった。


電話を切るとすぐに

…「会いたいな…。」

彼に会いたい、そう思った。

人に話して想いは確信に変わった。
そして秘めたままじゃ嫌だと思った。

当たって砕けてみてもいいじゃない!
そんな有りがちな台詞がその頃の私にはやけに励みになった。


『よしっ!!自分に正直に生る!負けない!』

そう一人言を口にして自分に活を入れた。


この日を境に私は気持ちが少し楽になった。
恋をしてるんだって再認識したから。