「ねえ」
と、また後ろから低い掠れた声がした。
振り向くと、すっかりガラガラになった車内で1人の男子生徒を確認する。
そしてその姿に私は息を飲んだ。腹痛も忘れて、文字通り視線が釘付けになる。
茶色いふわふわの髪に、中性的な凛とした顔。背もすらっと高くてモデルみたい。魅力的、とはまさにこの事だ。
ていうかこの人の来てるの、うちの高校の男子制服。もしかして同じ学校?
と、その整った形の眉がひそめられた。
「ねえ、聞こえてる?」
「うわっ!?はい!」
我に返ると、目の前にズイっと何かが押し出された。缶コーヒーだ。
「飲むか腹に当てて。ひどい顔色してるよ」
ニコ、と微笑むその人。綺麗な顔立ちだけど、私はその笑顔に違和感を覚えた。
……なんかこの笑顔、貼り付けたような……不自然な感じがする。見え見えの営業スマイルというか何というか。あれ、でも見知らぬ人に対してだから作り笑いも当たり前なのか?
