――は?


大浜の間抜けな声に驚き、横を見る。

と、目の前で大浜の体が大きく傾いていた。女子の悲鳴がどこからか聞こえた。
バランスを崩したのか、と考えるよりも先に、身体が動いた。

その腕を引っ張り、体を抱き寄せる。
そして派手な音を立てて、俺と大浜は床に転んだ。


「いったー……」


耳元で聞こえる大浜の声。俺の上に座ってもたれかかっている。
痛いのはこっちだっての。


「……早く退いてくれない?」


そう言うと、大浜はビクッと身体を跳ね上がらせた。どうやら俺の上に跨っていることに気づいたらしい。


「ごめん!」


そう、大浜が大声を上げて顔を勢い良く上げた。

――その時、唇が微かに触れ合った。

一瞬停止する大浜。そして慌てて顔を離した。
その顔はりんごのように赤い。


「……何顔赤くなってるの?気持ち悪いんだけど」


俺がそう指摘すると、さらに真っ赤になる耳。
……おもしろい。


「な……なってない!」


大浜は急いで俺から降りると、顔を背けて眼鏡からレポートをひったくる。
俺はそんな大浜に皮肉を言ってから教室を出ていった。


――くく、あいつの顔真っ赤だった。

そんな事を思いながらトイレに入りふと鏡を見る。

そして、自分の顔も赤くなっている事に気が付いた。