「ちょ……!」


こればっかりは許せない。
でも腹部の締め付けるような痛さには抗えなかった。声は掻き消える。

もう耐えるしかない、のかな……。


「いい歳して痴漢か?みっともない」


半ば諦めかけていると、後ろからそんな声が聞こえた。低めの少し掠れた、だけど耳に心地の良い声。
どうかんがえても後ろのしわがれたおっさんの声じゃない。誰かが痴漢に向けて言ってくれたんだ。姿を確認したいけど、身動きひとつ取れない。


「な、そ、そんな。痴漢なんて……」


今度こそ後ろのおっさんがそう言う。

否定したけど、痴漢という言葉に反応したのか周りの人の目がこちらに集まり始めた。
おっさんは居心地が悪くなったのか、混雑にまぎれて次の駅で降りていった。
まだかなりお腹は痛いけど、ほっと安堵の息を吐く。