文武両道、とはまさにこの事だった。
「……問7分かる奴いるか?ちょっと難しいけど」
数学の教師は誰も手を挙げる気配がないのを見てニヤリと笑った。
この先生お手製の問題は毎度問7だけ激ムズ。ちょっと難しい所じゃない。
こんなの誰が解けるのさ……と呆れていると、スラリと隣で蒼空が手を挙げるのが視界の縁に見えた。
「……じゃあ、江戸川」
「はい」
ちょっと不機嫌になる先生に呼ばれ、音を立てて立ち上がる蒼空。
黒板まで歩いていくと、カッカッと小気味よく答えを書いていく。
はあ……後ろ姿、超かっこいい。
書き終わると、蒼空は先生に目配せした。
先生は顔をしかめて少し唸ると、やがて
「……正解」
おおっ!と湧き上がる歓声。
「流石江戸川君!天才!」
「凄い!やっぱり頭の出来が違うんだね!」
女子の黄色い声があがった。
蒼空はさっきの体育の100m走で11.43秒をたたき出したばかり。高校2年生2日目にして、既に圧倒的なカリスマ性をあらわにする蒼空は言わずもがな、クラス中の女子が虜になった。
けれど、戻ってきた蒼空の表情は浮かないものだった。
