「じゃあ、大浜で」
ハゲ山がため息をつきながらそう言うと、黒板に書かれる『大浜』の文字。その隣に『江戸川』と書いてある事がなんとも誇らしい。
え?毎日七時まで残って平気なのか?残念ながら私かなりの暇人だからそういう心配はいらないのです。
「委員会一緒だね」
となりを向いて江戸川にそう言う。
江戸川は頬杖を付いて、私の声が聞こえてないかのように振る舞っている。
「ねえ、江戸川ぁー」
机をコンコンと叩く。
まさかまた無視か。
こうなったら話し返してもらうまでだ。
「江戸川くーん」
今度は揺らしてみるけど、江戸川は動じない。
「……蒼空ちゃん?」
と、江戸川の肩がビクッと反応した。
私は思わず噴き出す。
「ははは、動揺した」
江戸川は恨みがましい目で私を見て、そしてため息をついた。
わお、この顔なかなか貴重じゃない?
なんだか嬉しくなって江戸川の顔をのぞき込んだ。
「蒼空って呼んでいい?」
ちょっと出すぎたかな。そう思ったけど江戸川はチラリと私のことを見て、
「好きにして」
とだけ言った。
内心で舞い上がるのを堪えて蒼空を見つめる。
「じゃ、私も華って呼んでよ」
「気が向いたらね」
うん、と元気よく頷くと、江戸川は眉をひそめながら顔をこちらに向けた。
それでもなおニコニコと微笑むと、その口元に呆れた笑みが浮かんだ、気がした。