「それで、君はどうして家に帰らないんだ」




「……この世界に、私の帰る場所なんて、ありません」




そう言うと、彼はしゃがんで私と目線を合わせた。




「君は、ここ京の町の人間か?

 それとも、江戸の人間なのか?」




「……どっちも、違います」




「ならば……君は、この世界の人間なのか?」




「……いいえ」




すると、山崎さんはより一層真剣な眼差しで私を見てきた。




それから、口元の布をグッと手で下げた。




ようやく、彼の素顔が見えた。




月明かりに照らされた彼の顔は、なんだかとても素敵に見えた。