俺は、武士だ。




新選組の調士、監察方の武士だ。




『本当にそうか?』




声の主が、ニヤッと笑う。




本当にって……どういうことだ。




『お前は、武士という肩書に助けられ、人を斬るのを楽しんでいるだけではないか?』




「なに……?」




『昔は持つことの許されなかった刀を手にしたことで、お前は以前まで許されなかった、人斬りを堂々と出来るようになった』




「それは……任務、で仕方なく……」




『建前などいらない。

 禁断の行為を行う背徳感、その甘美な香りは、お前を狂わす……』




声は、次第に黒い霧となって、俺の周りを覆い尽くす。




『お前は、殺しを楽しんでいないか?』




思わず、息を呑む。




俺が、殺しを楽しむ……?




馬鹿な、そんなことはない。




『お前は、血を浴びるのが快感なんだ。

 認めろ、お前の中にあるのは、崇高な志などではない。

 赤黒く染まった、狂気だ……』




言葉が、体に絡みつく。




違う、俺の中にそんなものはない!




もし、そんなものがあるとしたら、それはまるで……バケモノじゃないか。