「佐渡」




もう1度、耳元で名前を呼ばれた。




この声、土方さんだ。




私、今土方さんに抱きしめられてるの……?




「土方、さん……?」




「佐渡、悪かった」




そう言って、土方さんは少しだけ腕に力を込めた。




「本当に、悪かった」




土方さんが謝ってる。




何か、何か言わなきゃ。




でも、何も出てこないや……




どうしよう……




「お前は、もう屯所に帰れ。

 2人の隊士を付き添わせるから、いいな」




「……」




「佐渡」




「はい……」




気が付けば、叫び声は止まっていた。




土方さんは、2人の隊士さんを呼んで、何か話していた。




でも、話をしている間も、土方さんは私を離さなかった。




「それじゃ、頼んだぞ」




そう言って、土方さんは私から離れた。




「あ……」




思わず、土方さんの羽織りを掴んでしまった。




少しだけ目を見開いた土方さんだったけど、すぐに優しい顔になった。




「大丈夫だ、こいつらが必ず送り届けてくれる。

 俺達も、すぐに帰る。

 先に屯所に帰って、俺達の事出迎えてくれ」




「……分かり、ました」




私が頷くと、土方さんは池田屋の方に行ってしまった。




「さあ、行きましょう」



隊士さんに促され、私はゆっくりと立ち上がった。




「歩けますか?」




「はい……」




「佐渡さん、今から、耳を塞がせていただきます。

 少しの間ですので、我慢してください」




そう言って、1人の隊士さんは私の耳を塞いだ。




何も聞こえなくなったところで、私はおぼつかない足取りで、池田屋を後にした。