一見何を考えてるのかわからないけど、優しそう。人気があるのも頷ける、なんて思った。

事務室と玄関のちょうど間辺りで、通り掛かる学生や職員の邪魔にならないように、壁に背中をへばりつけて待っていると。


「つばさー!今日もタダで勉強教えてもらいに来たのか?」


教室から出てこちらに向かって走り寄ってくる基樹くんの姿が見えた。


「こんばんは、授業終わったの?」
「うん!つばさは今来たのか?」


小学生の基樹くんの目線に合わせて屈んで話すあたしの頭に、コツンと何か固いものが当たって、反射的に顔を上げる。


「いつからつばさを呼び捨てするようになったんだお前は」
「柏村先生!」


あたしの次にファイルで小突かれた基樹くんは、「先生だってつばさって呼んでんじゃん!」廊下中に響き渡るわんぱくな声で叫んだ。
先生だって、笹原先生に負けてない。小学生に大人気なのだ。


「生意気言うな、基樹」
「親父くせー!」
「あぁ?なんだと?」


先生は本気で怒ったように眉をしかめたけど、当の基樹くんはそんなのちっとも気にする様子はない。