地元が……この町?

驚きすぎて反応する術を忘れたあたしを、相手は可笑しそうに、心なしか満足げに見つめた。

そんな、
そんな嬉しすぎること、あたし

一言も聞いてないよ


「せ、せせ先生っ、」
「ストーップ。」


ようやく発した声なのに、いとも簡単に遮られた。
準備室の窓からは、とろとろと、溶けだしそうな夕日が射し込んでくる。

窓の縁から溢れだしそうだわ。あたしの、気持ちみたいに。


「俺もうお前の先生じゃねぇよ」
「え?で、では……柏村さん?」
「俺に駿河さんって呼ばせてぇのか」


本気でムッとしたような言い方だったけれど、全然怖くなかった。
目の前で揺れる先生の髪が、柔らかい橙色の光に透かされている。


「お前、俺の名前わかってんの?」
「え?尚道、ですよね」
「……」


きょとんとするあたしに対し、名前を知ってたことがよっぽど意外だったのか、先生は顔を背けて口元に手を当てた。

隠れきれていない頬の隅が真っ赤なのは、夕日のせいだけじゃない、ですよね。

これからは掴み所のない先生の気持ちを、そうやってレクチャーしてくださいね?先生――



END