ベイビー クライ


車の排気音が聞こえた。
カーキ色の、大きな車。

家の前に停車している。運転席の脇を通り過ぎて、足を一歩踏み出して。「――っ!」見間違いかと思った。不確かなままで振り向くと、運転席の窓が開いた。


「おい、シカトすんな。勝手に帰りやがって」
「…先、生?」


口元から煙を立ち上らせる人に、目を見張る。


「な、なんでうちに…」
「いーから。乗れよ」


片手でハンドルを握っているらしい先生は、くわえ煙草のまま、助手席のドアを開けた。

どうしよう


「…っ」
「…駿河」
「はいっ」


どうしよう、
ひどく、嬉しいなんて思ってしまう。

初めて乗る先生の車。
中はたった今押し消した煙草の残り香、それにほんのりと香水のような匂いがする。


「ちょっと走らせるから。ベルト締めろ」
「あ、はいっ」


ギアを操作して、いつもと変わらない気だるい目付きで前方を見つめる先生に、つい見惚れる。

あたしいつから、こんなに好きになっちゃったんだろう。
そんなことを思ったら、つい口から漏れた。「学校、辞めるんですね…」