芽衣ちゃんは今日、昨日のカラオケで知り合った他校の男子と遊びに行くのだとか。
後ろ姿に手を振ってから、あたしは迷いながら準備室の前を通り過ぎる。
戻ろうかな。
決意が揺らいでしまう。意地なんて張らないで、きちんと話す必要があるのはわかってる。
だけど
『なんか用か?』
またあんな冷たい表情をされたら?
芽衣ちゃんや他の生徒の前だから、っていうのは、頭ではわかるのだけど。
また、煙たそうに拒まれたら…
「つばさ」
背後から呼ばれた声は、よく知ってる人のもの。「…千紗…」緊張したような、険しい顔。
こっちまで感染る。廊下の空気が張り詰める。
「…準備室行くの?」
「……え、あ…」
「その前に、話がある」
準備室前の薄暗い廊下に、声だけが響く。
「あたし朝、職員室で先生たちが話してるの聞いちゃったんだ」
あたしの返事を聞かずに話しだした千紗は、一呼吸置いて続けた。
「柏村が、辞めるって…」
「…っ、」
「辞めて、地元に戻るって言ってたけど、つばさ知ってた?」

