ベイビー クライ


今にも咲き出しそうな、ふっくらとしたピンク色の桜のつぼみ。
あたしの心は、それとは到底かけ離れて、散り散りに千切れてしまいそうなだけ。

それだけ。





「――テキストの65ページを開けー」


よりによって、昼休みが終われば数学。

黒板を背にして、テキストをめくる先生。
あたしの張り裂けそうな胸の中なんて知るよしもなく、いつも通りの落ち着いた態度で、右手でチョークを持つ。

黒板は右、書類は左。両利きで、使い分けられる器用な人。
箸は右で、スプーンは左、気が緩むと、左。だけど、


『教師とオトコ使い分けるのは、楽じゃねぇな』


そう、言ってくれましたよね?


「出席番号3番のやつ、この問題を前に出て解け」


先生が、辞める。
先生が、いなくなってしまう

信じられない。そんなの、絶対にいやだ。
先生はあたしには何も、言ってくれない。


「…っ」


せめてたった今、黒板で問題を解いている生徒がチョークを置いて、席に戻ったら。
“質問があるやつはいないか”って、言ってくれればいい。