ベイビー クライ


だとしたら、それは先生に会えたからだよ――なんて恥ずかしいセリフは、口が割けても言えないけれど。


「そんな顔して授業も聞いてくれりゃ、ちょっとはやり易いんだけどな」


最後にひとつ長い煙を吐き、ジャケットのポケットの中から携帯灰皿を取り出すと、煙草を消した。
そして少し乱暴な手つきで、携帯灰皿の蓋を閉める。苛立ちを、その仕草が物語っている。


「…っ腹立つわ、ガキ共。俺なんて、」


風はもう、止んだ。
あたしの周りに凍てつく寒さも、濁った空気も見当たらない。

存在するのは、ただ――


「いつもガマンばっかしてんのに」


ふんわりと抱き寄せる、ぬくもりだけ。
「せ…、」また禁句を言ってしまいそうになって、とっさに口籠もる。一気に上昇したあたしの体温を冷ましてくれる風が吹かないか、願う。
鼻を押しつけた胸元からは、煙草の匂いがほんのりと漂った。

ね、先生――?


「早く、俺のものになればいいのにな」


名前も知らない、他校の男子なんかにヤキモチですか?
なんて思ったら、益々動悸が激しくなって、あたしは息を押し殺した。