カーテンを窓一枚分だけ閉じると、中庭から死角になるであろう場所にキャスター付きの椅子をずらし、柏村先生は腰を下ろした。
「ひとつめのレクチャーな?」
カップの中身を見つめるあたしに、おいでおいで、と手招きをする。「沈黙と肯定は、ニアリーイコール。」素直に、柏村先生の真ん前に立ったあたしの両手を握り、首を傾げてふっと笑った。
こういう、普段教壇の上では絶対にしない、ただの若い男の人の表情は、あたしの心拍数を無条件に上げる。「あ、の…先生、」なにか言わなきゃ、そう自分を急かしていたら、トントンと扉をノックする軽快な音が、あたしたちの世界を破った。
「失礼しまーす!」
すかさず柏村先生の手を放したあたしは、聞き覚えのある声に、肩を釣り上げる。
一瞬にして、体が強張っていくのを背筋で感じた。
「柏村先生ー、つばさ返してくださいよ」
「芽衣ちゃん…」
本当に迎えに来たんだ…
扉の方角に振り返ると、腰に両手を当てた芽衣ちゃんが、ぷっくりと頬を膨らませている姿が目に入った。

