ベイビー クライ


それは、「……」一応先生の前だし、すんなりとは首肯し難い言葉。
窓に背を向け、ただつっ立っているあたしの傍に歩み寄った柏村先生は、うっすらとその顔に笑みを浮かべた。


「個人授業のしがいがあるな」


からかわれてるのか、本気なのか。
その真意がわからないまま、あのバレンタインの出来事から一ヶ月以上が過ぎた。


「…数学は苦手です。すみません」
「俺はこれでもお前のこと褒めてんだけど」


そうは聞こえませんけど、先生。

中庭から女子生徒たちの声がまばらに聞こえて、柏村先生は回れ右をする。
そして、テーブルの上に用意されていたカップを指で指した。

先週、ホワイトデーのお返しと称して、マシュマロが入ったホットチョコをいただいた。
今目の前にあるカップにも、柔らかそうな白い固体が浮かんでいる。


「…いただいていいんですか?」
「俺、期待してもいーの」


抑揚のない言い方。
活字にしたら、疑問文かどうか、わからないかもしれない。


「な、にを、ですか…」
「ん?特別授業。」