数学準備室、ノックは三回。
まもなく、「おう」とう短い返事が聞こえて、扉を開けると足を進めた。
数学準備室は、生徒用の玄関を過ぎ、職員室や各教室もどんどん通り越えた、校舎の一番奥にある。
だからなんだか、陰気な感が否めない。
「失礼します」
けれども実際は、中庭のテニスコートに面する大きな窓があって、そこから西日がたっぷり入るから、この時間帯はぽかぽかとしていて暖かい。
「来たな。」
柏村先生はキャスター付きの椅子から立ち上がると、あたしにパイプ椅子に座るよう、手で促した。
「なにか、用ですか」
「別に。用がなきゃ呼ぶな、って?」
…というか、てっきり、数学の授業中に話を聞いてなかったことを、咎められるのかと思った。
肩透かしをくらった気分で、あたしはひとつ息を吐いた。
「そーの不服そうな顔」
「お、可笑しいですか」
「いや、いんじゃね?」
降り注ぐ夕日が、柏村先生の黒い髪を、わずかに茶色く透かせて見せる。
「駿河って、おとなしくて優等生タイプかと思いきや、勉強は好きじゃねぇよな」

